減価償却とは?不動産投資での意味と目的

減価償却(げんかしょうきゃく)とは、建物や設備など時間の経過とともに価値が減少する資産について、その取得費用を使用可能期間にわたり分割して経費に計上する会計処理のことです。
税法上、建物や機械設備、車両などは減価償却資産とされ、取得代金の全額を購入時に一度に経費にはできず、法定耐用年数に従って少しずつ費用化します(*1)。例えば、1,000万円で購入した建物を耐用年数20年で減価償却する場合、毎年50万円ずつを経費にするイメージです。
このように減価償却は、資産の価値減少を期間配分することで各年の収益に対応する費用を適切に計上する役割があります。
減価償却とは「資産の価値を分割して経費計上すること」
建物や設備は年月とともに古くなり価値が目減りしていきます。その価値の減少分を「費用」とみなし、少しずつ計上する仕組みが減価償却です。
減価償却では資産ごとに決められた耐用年数(税法で定められた使用可能期間)に沿って、取得価格を按分して毎年経費化します。たとえば取得価格が大きい建物でも、一年で使い切るわけではないため、耐用年数に応じて費用を分散させるイメージです。これにより収入を得る期間と費用計上の期間を一致させ、より正確な損益計算を行います(*2)。
不動産投資では建物がこの減価償却の対象となり、購入代金を長期に分けて経費化できる点が特徴です。
なぜ不動産投資において減価償却が重要なのか?
減価償却は不動産投資の節税メリットに直結するため重要です。建物の減価償却費は実際に現金支出を伴わない経費ですが、これを計上することで帳簿上の利益を圧縮できます。
たとえば、家賃収入から経費を差し引いた利益が本来100万円出る物件でも、減価償却費100万円を計上すれば税務上の利益はゼロになります。利益が圧縮されれば、その分支払う所得税・住民税も少なくなります。
特に給与所得など他の所得があるサラリーマン大家の場合、不動産所得が赤字になれば他の所得と損益通算して全体の課税所得を減らすことができます(*3)。つまり減価償却費のおかげで、毎年現金の支出がなくても帳簿上の赤字を作り出し、給与所得などと相殺することで税金を減らす効果が得られるわけです。
さらに、日本の所得税・住民税の税率は累進課税で、高所得者ほど税率が高くなります。最高税率は所得税45%に復興特別得税(得税額の2.1%)と住民税10%を加え、実質約55.9%にも達します(*4)。そのため所得の高い投資家ほど、減価償却による所得圧縮の節税メリットが大きいのです。
不動産投資で減価償却を活用することは、節税と手元キャッシュフローの効率化において非常に重要な戦略となります。
減価償却できる不動産の種類と対象部分

土地は減価償却できない?
不動産投資で注意したいのは、土地そのものは減価償却の対象にならないという点です。土地は時間が経過しても物理的に消耗しにくく、むしろ地価が上昇することもある資産です。そのため税法上も「時の経過により価値が減少しない資産」と位置付けられ、減価償却資産から除外されています(*1)。
不動産を購入した際には土地と建物の価格を区分しますが、建物部分のみが減価償却可能となります。たとえば1億円の物件を購入しても、その内訳が土地6,000万円・建物4,000万円であれば、減価償却できるのは建物分の4,000万円のみです。
なお、農地(農地転用前の土地)も同様に減価償却はできません。農地を取得しても、それ自体は土地である以上減価償却できず、建物を建てて初めて減価償却資産になります。土地は将来売却時の譲渡益には影響しますが、保有中の減価償却という観点では節税効果がないことを押さえておきましょう。
建物・設備・構造別にみる償却対象の違い
減価償却の対象となるのは建物本体だけではありません。建物附属設備や構築物も償却資産として経費計上できます。
建物附属設備とは、建物に付随して設置される設備で、たとえば電気設備(照明や配線)、給排水・ガス設備、空調設備、エレベーターなどが該当します。一方、構築物とは建物以外の工作物(外構や塀、駐車場の舗装など)を指します。これらは建物本体とは別個に耐用年数が定められており、一般に建物本体よりも耐用年数が短い傾向があります。
例えば、建物附属設備の多くは耐用年数15年程度に設定されており(*5)、建物本体が30年以上にわたって償却するのに比べ速いペースで減価償却できます。
不動産投資では物件取得時に建物と附属設備・構築物の価値を分けて計上するケースがあります。建物と設備を区分して取得価額を配分することで、設備部分を短い耐用年数で償却し、早期に経費化できるメリットがあります。例えば、中古物件を購入した際にリフォームで設備を入れ替えた場合、その設備費用は15年など比較的短期間で減価償却できます。
こうしたコストの区分経理は節税テクニックの一つですが、計上には税務上の基準を満たす必要があります。また、減価償却可能な資産か否かの判断も重要です。土地そのものや敷地内の植栽など価値が減らないものは対象外です。
投資家は「どの部分が減価償却できる資産なのか」を正しく把握し、建物本体以外の償却可能部分もうまく経費計上することで節税効果を最大化できます。
減価償却の計算方法|耐用年数と償却率の基本
建物構造別の耐用年数一覧
減価償却の計算には、その資産ごとに法定耐用年数(ほうていたいようねんすう)を用います。耐用年数は資産の種類や構造によって法律で細かく定められており、不動産の建物についても構造・用途別に年数が決められています。代表的な建物の耐用年数を以下に示します(住宅用のケース)(*6)
| 構造種別 | 法定耐用年数 |
|---|---|
| 木造(一般的な木造住宅) | 22年 |
| 鉄筋コンクリート造(RC造) | 47年 |
| 鉄骨造(重量鉄骨:骨格材厚さ4mm超) | 34年 |
| 鉄骨造(中量鉄骨:骨格材厚さ3mm超4mm以下) | 27年 |
| 鉄骨造(軽量鉄骨:骨格材厚さ3mm以下) | 19年 |
| れんが造・石造・ブロック造 | 38年 |
以上のように、構造が頑丈なほど長い耐用年数が設定される傾向があります。木造は約22年であるのに対し、鉄筋コンクリートは47年と倍以上です。実際の建物寿命とは別物で、あくまで税務上の年数ですが、この数値にもとづいて減価償却費を計算することになります。
例えば木造アパートなら22年かけて、RC造マンションなら47年かけて、取得費用を経費化するイメージです。なお、建物の用途(住宅用か事務所用か等)によって若干年数が異なる場合もありますが、住宅用不動産投資では上記年数が一つの基準となります。
定額法と定率法の違いと使い分け
減価償却費の計算方法には主に定額法と定率法の2種類があります。
| 項目 | 定額法(ていがくほう) | 定率法(ていりつほう) |
|---|---|---|
| 償却方法の特徴 | 毎年同じ金額を償却する | 初年度に多く、年々減っていく金額を償却 |
| 償却費の計算式 | 取得価額 × 償却率(=1 ÷ 耐用年数) | 期首簿価 × 定率法の償却率(法定による) |
| 毎年の償却額 | 一定額(例:毎年20万円) | 初年大、以降は逓減(例:初年40万円→次年30万円→20万円…) |
| 利益への影響 | 各年の損益変動が少ない → 安定的な利益計上 | 初期に費用が大 → 初期の利益圧縮・節税効果が高い |
| 主な適用資産 | 建物(原則として定額法のみ) | 建物以外の設備や器具備品(一定条件で選択可能) |
| 会計処理の簡便性 | シンプルでわかりやすい | 年ごとの残高計算が必要でやや複雑 |
| 中小企業の節税効果 | 安定運用重視 | 初期のキャッシュアウト対策・節税に有利 |
定額法と定率法、どちらを使うかは資産の種類や取得時期によって異なります。日本の税制では2007年(平成19年)以降に取得した減価償却資産について、建物は原則として定額法で償却することと定められています(*8)。
一方、建物附属設備や構築物、機械装置など一部の資産については定率法も選択可能でしたが、現在では多くのケースで定額法が基本です。したがって不動産投資の建物減価償却は実質的に定額法一択となります。
ただし、かつて取得した古い資産や法人で資産計上する場合など定率法を適用できるケースも一部あります。その場合、定率法は初期の減価償却費が大きく節税効果を前倒しできる反面、後半の償却費が小さくなるため後年の経費が減るという違いがあります。
投資計画上どちらが有利かはケースバイケースですが、一般的に建物に関しては税法により定額法が強制されているため、均等償却で堅実に費用配分するのが現状の標準となっています。
実際の計算式と例(木造・RC)
それでは減価償却費の具体的な計算例を見てみましょう。基本式は以下の通りです。
例えば、木造アパート(耐用年数22年)を取得価額2,200万円(建物部分)で購入した場合を考えます。年間の減価償却費は 2,200万円÷22年=100万円 となります。毎年100万円ずつ経費計上し、22年かけて建物価値を費用化していくイメージです。
同様に、鉄筋コンクリート造RCマンション(耐用年数47年)を取得価額4,700万円で購入した場合は 4,700万円÷47年≒100万円 となり、年間約100万円を47年間償却します。
実際の税務計算では1年未満の端数切り捨てや、月割計算(取得や売却が年途中の場合の按分)が加わりますが、基本的な考え方は「耐用年数で均等に割る」です。
また、減価償却率という形で定められることもあります。定額法の償却率は1÷耐用年数で求められます。
例えば耐用年数10年なら償却率0.100(10%)で、100万円の資産なら毎年10万円ずつ償却します。定率法の償却率は定額法より高めに設定され、10年の場合は0.200(20%)となり初年度20万円、以降徐々に減額となります(*7)。
不動産投資の建物については前述のとおり定額法が適用されますので、購入価格(建物部分)を法定耐用年数で割って算出すればOKです。
<減価償却費 計算例>
▸ 木造アパート(耐用年数22年)・建物取得価額2,200万円 → 年間償却費100万円
▸ RCマンション(耐用年数47年)・建物取得価額4,700万円 → 年間償却費約99.9万円
このように計算した減価償却費を毎期の経費に含めることで、家賃収入から差し引いて課税所得を計算します。耐用年数が長いほど1年あたりの減価償却費は小さく、短ければ大きくなるため、物件の構造・築年によって節税効果の出方も異なる点に留意しましょう。
中古物件と新築で減価償却の計算はどう変わる?
中古物件の耐用年数の短縮ルール
新築物件であれば、その建物は丸々法定耐用年数を使って減価償却していきます。一方、中古物件を購入した場合、既にある程度使用された建物ですから、残りの耐用年数を見積もって償却することになります。
税法では中古資産の耐用年数を求める簡便法というルールが定められており、以下のように計算されます
(計算結果が2年未満の場合は2年とする)▸ 耐用年数の一部が経過している中古資産:新品の法定耐用年数-経過年数+(経過年数×20%)
(小数点以下は切り捨て)
この簡便法により、中古建物の減価償却期間は新品購入より短く設定されます。
具体例を挙げると、法定耐用年数22年の木造住宅(新品なら22年償却)を築25年経過後に購入した場合、既に22年を超過していますので耐用年数は「22年×20%=4.4年」となり4年(端数切り捨て)となります。
また、築10年のRC造マンション(法定47年)を購入した場合は「47年-10年+(10年×20%)=47-10+2=39年」となります。
中古物件ほど減価償却できる期間が短縮されるため、1年あたりの償却費用は相対的に大きくなります。これは投資家にとって節税効果が高まる側面があります。特に法定耐用年数を過ぎた築古物件は、残存期間が「法定耐用年数×20%」とごく短くなるため、数年間で一気に償却できます。
ただし留意点として、計算上導き出された耐用年数が2年未満になった場合は強制的に2年とみなされます。極端に築古の建物を買うと本来1年程度しか残らなくても2年償却となるケースがありえます。
また、経過年数の計算では月単位で切り上げ/切り捨てのルールがあります。こうした中古物件特有の耐用年数計算は少々複雑ですが、その分初期の減価償却費を大きくできるメリットがあります。中古物件を取得する際は、この耐用年数簡便法による減価償却期間を把握しておくことが大切です。
購入時の価格配分(土地と建物)
前述のとおり、不動産購入時には土地と建物の金額を按分して計上します。土地は非償却、建物は償却対象ですから、この按分が節税上とても重要です。
売買契約書に土地・建物の内訳価格が明記されていればその金額を用いますが、実際は一括価格のみ記載のケースも多いです。その場合、一般的には固定資産税評価額の比率や時価評価を用いて合理的に土地建物の価額を按分します(*9)。
たとえば固定資産税評価額で土地が3,000万円、建物が1,000万円と算定されている物件(合計評価4,000万円)を8,000万円で購入した場合、評価額比率3:1に応じて、購入価額のうち土地6,000万円・建物2,000万円といった具合に配分します。こうすることで、建物2,000万円を耐用年数にわたり減価償却するという計算になります。
| 区分 | 固定資産税評価額 | 評価割合 | 購入価額配分 |
|---|---|---|---|
| 土地 | 3,000万円 | 75% | 6,000万円 |
| 建物 | 1,000万円 | 25% | 2,000万円 |
| 合計 | 4,000万円 | 100% | 8,000万円 |
※ 建物に配分された 2,000万円 が減価償却の対象となります。
按分の方法は税務上「合理的であればどの手法でもよい」とされていますが、固定資産税評価額にもとづく方法は実務で広く使われています。固定資産税評価額は自治体が土地・建物それぞれ算定しており同一基準で評価されているため、按分基準として合理的だからです(*10)。
投資家にとって、この価格配分は減価償却費をいくら計上できるかを左右します。できるだけ建物価格を高めに按分できれば、その分減価償却費が増えて節税メリットが大きくなります。ただし税務上不自然な按分は否認リスクがあるため、客観的根拠に基づいた配分が必要です。
適切に土地建物の価額を区分し、建物部分の減価償却を最大限活用することが不動産投資の肝と言えます。
減価償却による節税効果とは?

所得税・住民税を圧縮できる仕組み
減価償却の最大のメリットは、所得税・住民税の負担を軽減できることです。不動産所得の税金は「収入-必要経費」の利益部分に課されます。減価償却費を計上すると、その分必要経費が増え利益が減少するため、課税対象となる所得が圧縮されます。特に高額所得者ほど節税効果が顕著です。
例えば課税所得が1,000万円の人(税率33%+住民税10%程度)の場合、100万円の減価償却費を計上すれば約43万円分の税金を減らせる計算になります。課税所得が4,000万円を超える最高税率クラスでは、同じ100万円の減価償却で約55万円もの税金減少に繋がります。
また、不動産所得が赤字になった場合は他の所得と損益通算できるため、給与所得者にとっては減価償却で不動産所得をマイナスにすることが大きな節税ポイントです。
具体例を見てみましょう。家賃収入80万円、経費(管理費やローン利息等)60万円、減価償却費50万円の物件とします。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 家賃収入 | 80万円 |
| 経費(管理費・ローン利息等) | 60万円 |
| 減価償却費 | 50万円 |
| 帳簿上の損益 | ▲30万円 |
▲30万円(赤字) × 税率 だけ
課税所得が減り、税金が軽減されるイメージ。
なお、減価償却費は現金の流出を伴わない経費のため、手元キャッシュを減らさずに税金だけ減らすことが可能です。たとえば家賃収入からローン返済や維持費を払って手元に残るキャッシュはプラスでも、減価償却のおかげで所得上は赤字というケースもあります。
このようにキャッシュフローを維持しつつ納税額を抑えることができる点が、不動産投資の減価償却を活用する大きなメリットです。
実際にいくら節税できる?シミュレーション解説
では、減価償却による節税効果をシミュレーションで確認しましょう。先述のように「給与所得があるサラリーマンが不動産の減価償却で赤字を作る」ケースを考えます。
年収2,000万円(課税所得約1,767万円)の給与所得者が、減価償却による▲30万円の不動産所得の赤字を申告通算した場合を見てみます。
| 条件 | 所得税+復興税 | 住民税 | 合計税額 |
|---|---|---|---|
| 減価償却なし (課税所得 1,767万円) |
約388万円 | 約176万円 | 約564万円 |
| 減価償却▲30万円通算 (課税所得 1,737万円) |
約381万円 | 約172万円 | 約553万円 |
| 節税効果 | ▲約11万円 | ||
わずか30万円の帳簿上赤字でも、所得税・住民税合わせて約11万円の負担軽減。
減価償却が高所得者ほど効果的な理由が分かります。
さらに、減価償却で不動産所得が赤字になり所得全体を圧縮すると、各種所得控除や税率区分にも影響します。例えば課税所得がある税率帯から一段階下がれば、適用税率自体が低くなる効果も期待できます。
実際には課税所得が数十万円減った程度で税率が変わるケースは限られますが、社会保険料や扶養判定など所得金額基準にも影響が及ぶ可能性があります。
減価償却による赤字は、翌年以降黒字が出た際に相殺もできます。このようにシミュレーションで具体的な節税額を把握することは重要であり、物件購入の意思決定時には減価償却費を織り込んだ税引後キャッシュフローを検討すべきです。
ただし、注意したいのは「減価償却による節税=利益の圧縮」であるため、税金が減る分だけ最終的な利益も減っている点です。減価償却費はあくまで費用計上ですから、長期的には計上額の総計だけ利益が減少します。
極端な節税シミュレーションばかりに目を奪われず、物件の実質利回りや将来の売却益も踏まえた総合的な収支シミュレーションが重要です。
減価償却を活用した不動産投資の戦略
所得の高い人ほど節税メリットが大きい
前述した通り、減価償却の節税効果は所得税率が高い人ほど大きくなります。高所得のサラリーマンであれば、減価償却による赤字で給与所得の一部を圧縮するだけで、ダイレクトに高率の税金が節約できます。
例えば年収が2,000万円を超えるような方は、所得税率40%+住民税10%で実質50%前後の税率帯に入ります。そうした方が減価償却で100万円所得を減らせば約50万円の税負担減となり、手元キャッシュを大きく増やすことができます。言い換えれば、減価償却費の半分が自分のものになるような感覚です。
節税目的で不動産投資を始めるなら
- 高収入層に有効:税負担の重い会社経営者や医師が活用するケース多数
- 減価償却費が大きい築古中古物件が有利(短期間で償却可能)
【具体的なメリット】
- 耐用年数を経過した物件は簡便法で短い耐用年数を採用できる
- 建物価格が高いほど減価償却費を多額に計上できる
- 木造・軽量鉄骨など耐用年数が短い構造ほど節税効果が大きい
【計算例】
築古木造住宅(耐用年数4年)を取得価格1,000万円(建物部分と仮定)で購入した場合、
年間償却費:1,000万円 × 25% = 250万円 を4年間計上可能。
高所得者が取得すれば数年間にわたり大幅な所得圧縮が実現。
【専門家の見解】
「節税重視なら築古中古物件への投資がおすすめ。
建物価格が高く、耐用年数の短い木造・軽量鉄骨物件で
減価償却による赤字幅を最大化できる」(税理士談)
もっとも、節税ありきで利回りの低い物件を掴まないよう注意も必要です。高所得者ほど減税インパクトに目が行きがちですが、物件そのものの収益性も見極めなければ本末転倒です。しかし適切な物件を選べば、減価償却は「税金を払うくらいなら物件を買って資産形成しよう」という発想を後押ししてくれる強力な武器となります。
法人化との併用で節税効率を最大化する
減価償却による節税戦略をさらに進める場合、不動産投資の法人化も視野に入ります。
個人で不動産収入が増えてくると、所得税率が上がり税負担が重くなりますが、法人を設立して物件を保有すれば法人税率(おおむね23.2%、中小法人は年800万円以下部分15%)で課税されます。つまり高所得者が個人で賃貸収入を得るより、法人に収益を移したほうが税率面で有利になるケースが多いのです。
法人化すると減価償却の扱い自体は基本的に同じですが、法人には法人ならではの節税メリットがあります。
| 項目 | 個人(不動産所得) | 法人(会社) |
|---|---|---|
| 欠損金(赤字)の繰越期間 | 3年(青色申告) | 最大10年繰越可 将来の黒字と相殺できる |
| 減価償却費の計上方法 | 必ず毎期計上(強制償却) | 任意償却(利益状況に応じて調整可能) |
| 損益通算の範囲 | 給与所得など他の所得と通算可 | 個人所得とは通算不可(法人内で完結) |
| 節税・キャッシュ戦略 | 限定的 | ▸ 任意償却で利益調整 ▸ 欠損金10年繰越 ▸ 役員報酬で所得分散 ▸ 保険・退職金など経費範囲拡大 |
| 設立・維持コスト | 不要 | 設立費・登記費用、毎期の法人税申告費用などが発生 |
| 向いている規模感 | 小〜中規模/所得が比較的少ない場合 | 一定以上の利益・資産規模になったら検討 |
もちろん、法人化には設立コストや維持費用がかかり、損益通算が個人と法人の間ではできなくなる(給与所得との相殺不可)といったデメリットもあります。そのため一定以上の規模・所得になったら法人化を検討するのが一般的です。
目安として、不動産所得が年間数百万円以上で個人の税率が高くなってきたら法人化のメリットが浮上します。例えば給与と不動産所得の合計で課税所得が900万円超(税率33%)あたりを超える場合、法人税の方が有利と言えるでしょう。
減価償却は法人でも強力な節税手段であり、法人スキームと組み合わせることで節税効率を最大化できます。重要なのは、自身の所得規模や事業計画に応じて個人と法人のベストな形を選択することです。
減価償却に関する注意点・リスクも理解しよう

減価償却を過信するとキャッシュフローが悪化することも
減価償却は帳簿上の利益を減らすことで節税効果を生みますが、現金の出入りには直接影響しない点に注意が必要です。
極端な話、キャッシュフローが毎年マイナスでも、減価償却で赤字となり税金が減るため「節税になった」と言えてしまいます。ですがこれは手元資金が減り続ける本末転倒な状況であり、節税だけを追い求めるのは危険です。
たとえば、築古の木造アパートをフルローンで購入した場合、大きな減価償却費によって帳簿上は赤字になり税負担は軽減されます。しかし、実際にはローン返済や修繕費の支出で手元キャッシュがマイナスになることもあります。節税しても実際の収支が赤字では意味がありません。
さらに、耐用年数を過ぎると減価償却が使えなくなり、急に課税所得が増えるため、将来の税負担やキャッシュアウトが増えるリスクもあります。家賃が下がったり経費が増えたりすれば、そもそもの収益力が下がり、減価償却による節税ではカバーしきれません。
投資判断ではまず、ローン返済後もキャッシュフローがプラスかどうか、実質利回りが長期で見て納得できるかを重視すべきです。減価償却はあくまで「プラスアルファの節税効果」として考えるのが健全です。
要するに、減価償却は魔法の利益ではありません。将来のキャッシュフローや物件の資産価値、税金とローン返済のタイミングのズレも考慮し、収益と節税のバランスをとった長期的な資金計画が必要です。
節税狙いの投資で物件選びを誤らないために
減価償却による節税効果は確かに魅力ですが、節税だけを目的に投資判断を下すのは非常に危険です。節税とは「儲けを減らすことの裏返し」であるため、本来の目的である収益を損ねてしまっては本末転倒です。
例えば、「築古木造だから減価償却が多く取れる」と、需要のない地方の空き家同然の物件に飛びつくケースがあります。確かに帳簿上の節税にはなりますが、借り手がつかなければ家賃収入はゼロ。固定費だけが発生し、投資として成立しません。さらに、築年数が極端に古い物件は修繕費・維持費がかさみ、節税効果を打ち消してしまうリスクもあります。
また、「農地を安く買ってアパート用地に転用すれば節税になる」と考えるのも安易です。
日本では農地法により転用には行政の許可が必要で、許可が下りなければ建築すらできません。実際にこの50年で農地は約25%減少していますが、これは厳しい許可制度の下で計画的に転用されているためです(*11)。知識がないまま農地に手を出すのは高リスク行動と言えるでしょう。
重要なのは、「節税ありき」ではなく「収益性ありき」で投資判断を行うことです。物件の需要、収益性、将来の売却可能性などを慎重に見極めたうえで、減価償却は『プラスαのメリット』として活用するのが正しい姿勢です。
税金はあくまで「結果」であり、節税のために利益まで減らしては意味がありません。トータルで儲かる投資かどうかを第一に判断し、収益と税のバランスを意識することが、健全な不動産投資の基本です。
売却時の「譲渡所得」課税に注意
減価償却は節税に有効ですが、将来の売却時に税金面で影響が出ることも忘れてはなりません。
減価償却を毎年行うと、建物の帳簿価額(簿価)は徐々に下がっていきます。その結果、売却時には「譲渡所得=売却価格-(取得費-減価償却累計額)-譲渡費用」という計算式になり、減価償却した分だけ取得費が少なく見なされ、売却益が膨らむ仕組みです(*12)。
たとえば、建物5,000万円・土地5,000万円の合計1億円で購入した物件を、10年後に同額の1億円で売却するとします。建物を2,500万円まで減価償却していた場合、取得費は7,500万円(=土地5,000+建物2,500)となり、譲渡益は2,500万円。この金額に対し、長期譲渡なら20%(所得税15%+住民税5%)の譲渡税が課されます。短期譲渡(5年以下)なら約39%とさらに高率です。
つまり、減価償却で節税した分が、将来譲渡税として戻ってくる可能性があるということ。特に短期で売却すると、節税メリットより税負担が重くなるリスクもあります。
ただし、長期保有で十分に収益を得ていればトータルで有利になるケースも多いです。また、国税庁は「実際に償却していなくても、譲渡所得の計算では“していたもの”として差し引く(見做し償却)」と定めているため、「売るつもりだから償却しない」は意味がありません。減価償却は取れる分はしっかり計上するのが原則です。
大切なのは、売却時に思わぬ納税でキャッシュが不足しないよう、事前に譲渡税の見積もりと資金準備をしておくこと。大きく償却してきた物件を売却する際は、現金の確保や、買換え特例などの活用も視野に入れましょう。
減価償却は強力な節税ツールですが、『出口戦略』まで見据えて初めて真価を発揮します。
短期的な節税だけでなく、売却時の税金まで考慮した資金計画を立てることが、賢い投資判断です。
よくある質問(FAQ)

Q1 減価償却を途中でやめることはできる?
基本的に、減価償却は毎年きちんと計上するのが原則であり、途中でやめることはお勧めできません。
特に個人の不動産所得(青色申告)では、減価償却費の計上が原則とされています。仮に計上しなかったとしても、税務上は「償却したもの」とみなされるため、将来の売却時には差し引かれてしまいます(*12)。つまり、計上をサボっても節税にはならず、単にその年に税金を多く払うだけという結果になります。
| 観点 | 個人(青色申告) | 法人 |
|---|---|---|
| 減価償却の扱い | 原則必ず計上 (強制償却) |
任意償却 利益状況で調整可 |
| 計上しない場合の扱い | 税務上は償却済みとみなされるため 将来売却時に差し引かれる |
未償却残高がそのまま残る |
| 翌期以降のまとめ償却 | 不可 | 可能(戦略的に調整) |
| 節税戦略の柔軟性 | 低い(毎年計上が前提) | 高い(利益圧縮や黒字確保に合わせて償却) |
※ 個人で減価償却を計上しないと、その年に余計な税負担をするだけで節税にはなりません。
償却を後ろ倒ししたい場合は法人化の検討が現実的です。
Q2 青色申告と減価償却の関係は?
青色申告は、減価償却の効果を最大限に活かすためにもぜひ選択すべき制度です。
青色申告とは、帳簿を正しく付けて期限内に申告する納税者に対し、税務上の特典が与えられる制度であり、減価償却に限らずさまざまなメリットがあります。
なかでも重要なのが、純損失の繰越控除です。青色申告者は、不動産所得が赤字となり、損益通算しても控除しきれない損失が出た場合、その損失を最大3年間繰り越して将来の所得から控除することができます(*13)。
たとえば、今年▲100万円の不動産損失が出て、他の所得と通算しても▲50万円が控除しきれなかった場合、この50万円を翌年以降の黒字と相殺可能です。一方、白色申告ではこの繰越控除が使えず、損失が無駄になります。特に、減価償却で大きな赤字を計上するケースでは、青色申告が不可欠です。
| 項目 | 青色申告 | 白色申告 |
|---|---|---|
| 損失繰越控除 | 最大3年間繰越可 (例:▲50万円を翌期以降と相殺) |
不可(損失は消滅) |
| 青色申告特別控除 | 最大65万円控除(要件あり) | なし |
| 節税インパクト | 損失繰越+65万円控除で ダブル節税が可能 |
損失も控除も使えず 税負担が増大 |
例: 当期不動産損失▲100万円のうち給与所得と通算しても繰り越し▲50万円が発生。
青色申告なら翌期以降の黒字と相殺できるうえ、65万円控除も利用可。白色申告ではいずれも適用不可。
その他にも以下のような特典があります
| 節税策 | 概要 |
|---|---|
| 専従者給与の経費化 | 家族へ支払う給与を必要経費に計上できる |
| 少額減価償却資産の一括償却特例 | 取得価額30万円未満の資産を一括で経費化(※貸付不動産は対象外) |
総合的に見て、不動産投資をするなら青色申告は必須レベルです。帳簿作成の手間はあるものの、節税メリットは非常に大きいと言えます。
なお、減価償却そのものは白色申告でも可能ですが、青色申告でこそ繰越控除などを活用し、節税効果を最大化できます。不動産所得がある方は、できるだけ早めに「青色申告承認申請書」を税務署へ提出し、青色申告者となることを強くおすすめします。
Q3 不動産投資初心者でも減価償却は使える?
初心者でも減価償却は十分に活用できます。
減価償却は、税法で定められたルールに従って計算・経費計上するものなので、特別なテクニックは不要です。物件を初めて購入した方でも、正しく計算して申告書に記載すれば、すぐに節税効果を得ることができます。
実際、毎年約105万人が不動産所得の申告をしており(*14)、その多くは個人オーナーです。初心者も含め、多くの人が減価償却を活用して節税しています。
減価償却をしなかった場合、本来払わなくてよい税金を余計に払ってしまうリスクがあります。せっかく不動産投資を始めたなら、この節税メリットを確実に活かしましょう。
計算自体はそこまで難しくないため、自分で勉強がてらやってみるのも良い経験になりますし、不安な場合は税理士に依頼するのも有効です。初心者だからといって遠慮せず、積極的に減価償却を活用する姿勢が、将来の税負担軽減とキャッシュフロー改善につながります。
まとめ|減価償却は「節税」と「長期戦略」の両輪になる
不動産投資における減価償却は、短期的な節税と長期的な資産戦略の両面で重要な仕組みです。毎年の家賃収入から減価償却費を計上することで、所得税や住民税を抑え、手元のキャッシュを増やす効果があります。とくに高所得者にとっては、実質利回りを高める有効な節税手段になります。
一方で、減価償却を進めると建物の帳簿価額(簿価)が下がるため、将来の売却時に譲渡益が膨らみ、譲渡税が増える可能性があります。さらに、耐用年数を過ぎれば減価償却が取れなくなり、税負担が増すリスクもあるため、出口戦略も見据えた計画が必要です。
減価償却は制度上、誰でも同じように使える仕組みですが、効果をどう活かすかは投資家次第です。節税に偏りすぎてキャッシュフローが悪化したり、活用しなかったことで本来の利益を逃したりと、バランスを欠くと逆効果になります。大切なのは、節税と長期利益のバランスをとって使いこなすことです。
また、青色申告や法人化といった制度を活用すれば、減価償却の節税効果をさらに高めることが可能です。空き家再生や農地転用などの投資でも、減価償却は資金計画を立てる上で欠かせない要素となります。
初心者でも基礎を押さえれば十分に活用できる制度です。減価償却は不動産投資の基本ツールとして、仕組み・効果・注意点を理解し、自身の投資戦略に役立てましょう。
出典元
*1 国税庁: 「No.2100減価償却のあらまし」
*2 国税庁: 「第1款減価償却資産」
*3 国税庁: 「No.1391不動産所得が赤字のときの他の所得との通算」
*4 国税庁: 「No.2260所得税の税率」
*5 東京主税局: 「減価償却資産の耐用年数表」
*6 国税庁: 「主な減価償却資産の耐用年数表」
*7 国税庁: 「No.2106定額法と定率法による減価償却(平成19年4月1日以後に取得する場合)」
*8 国税庁: 「No.2105旧定額法と旧定率法による減価償却(平成19年3月31日以前に取得した場合)」
*9 国税庁: 「No.6301課税標準」
*10 国税庁: 「一括譲渡された土地・建物の各譲渡価額の区分について 」
*11 農林水産省: 「農地転用等の状況について」
*12 国税庁: 「No.3261建物の取得費の計算」
*13 国税庁: 「No.2070青色申告制度」
*14 国税庁: 「第145回 令和元年度版 National Tax Agency 国税庁統計年報」