相続登記の義務化とは?|2024年施行の背景と目的

所有者不明土地問題の深刻化
相続登記の義務化が導入された背景には、「所有者不明土地」問題の深刻化があります。相続が繰り返されても登記が放置され、土地の正式な所有者が分からなくなるケースが全国で増えました。
政府の調査によれば、2016年時点で所有者が不明な土地は全国で約410万ヘクタールに達し、九州本土の面積(約368万ヘクタール)を上回っていたとされています(*1) 。
この問題を放置するとさらに拡大し、2040年には所有者不明土地が約720万ヘクタール(北海道本島に迫る規模)に増加する恐れがあるとの政府試算も公表されました(*2)。
所有者が判明しない土地が増えることで、公的事業で土地を取得・利用する際に多大な時間や費用を要したり、土地管理が放置され荒廃するなど社会問題化しています。
こうした状況を受け、国は抜本的な対策の一つとして相続登記の義務化に踏み切りました。
空き家・放置不動産の増加と国の対策
所有者不明土地と並んで深刻なのが、空き家や長期間放置された不動産の増加です。総務省の住宅・土地統計調査によると、2023年時点の全国の空き家数は約900万戸にのぼり、住宅全体の13.8%を占め過去最多となりました(*3)。
使われずに放置された空き家は景観悪化や防災上の危険となるほか、不法侵入や火災のリスクもあり各地で問題視されています。
国は2015年に「空家等対策の推進に関する特別措置法」を施行し、市町村が倒壊の恐れがある老朽空き家(特定空家等)に対して修繕や撤去を命令し、従わない場合は行政代執行で強制的に除却できる制度を設けました(*1)。
しかし空き家問題の根本解決には至らず、所有者不明のまま放置される不動産を減らすため、今回の相続登記義務化が新たな対策として導入された経緯があります。
法改正のポイントと施行スケジュール
2021年に民法及び不動産登記法が改正され、相続登記の申請義務化が盛り込まれました。この改正により、不動産を相続(遺贈を含む)で取得した相続人は、取得を知った日から3年以内に登記申請を行うことが法律上の義務となったのが最大のポイントです。
正当な理由なく申請を怠った場合には、10万円以下の過料(科料)が科される規定も設けられました(*5)。施行日は令和6年(2024年)4月1日で、この日以降に発生した相続から新ルールが適用されます。また、施行前に発生して未登記の相続についても義務の対象となり、経過措置として2027年3月31日までに登記を済ませる必要があります(*6)。
このように、「いつまでに相続登記を行うか」という期限と罰則が法律で明確化されたことが、改正の要点です。
さらに今回の改正では、「相続人申告登記」制度も新設されました。これは2024年4月1日から利用可能となった制度で、相続人が一人で申請でき、登録免許税が不要で、遺産分割協議書も提出不要という特徴があります。
相続人の確定や遺産分割がまだ終わっていない場合でも、とりあえず「自分が相続人である」ことを法務局に申告し、登記簿にその旨を記載してもらうことで、義務違反による過料を回避できます。
このほか、所有者の氏名・住所変更登記の義務化(2026年4月1日施行予定)など、不動産登記制度全般の見直しも含まれており、段階的な施行スケジュールに沿って、2024年の相続登記義務化を皮切りに順次新制度が導入される計画です。
義務化の対象となる人・不動産とは?

対象者:相続によって不動産を取得した全相続人
相続登記の申請義務化は、不動産を相続または遺贈によって取得したすべての相続人が対象です。被相続人(亡くなった方)から土地や建物などの不動産を引き継いだ人は、その取得を知った日から3年以内に登記を申請しなければなりません。
ここでいう「相続人」には、遺言によって不動産を受け取る受遺者も含まれます。たとえば「自宅の土地建物を長男に遺贈する」という遺言があれば、長男は相続登記義務の対象者です。
また法定相続人が複数いる場合は、本来その不動産を取得する権利がある相続人全員に登記申請義務があります。共同相続の場合でも登記義務は各人に及ぶため、「自分以外の誰かが相続登記してくれるだろう」と放置せず、協力して手続きを進める必要があります。
なお、法人が遺贈などで不動産を取得したケースも原則として義務の対象となります(法人名義で相続登記を申請する形になります)。
対象不動産:空き家・土地・山林も含まれる
義務化の対象となる不動産は、登記が必要なすべての不動産です。宅地や建物だけでなく、農地や山林、原野などの土地も対象に含まれます。
つまり「田舎にある使っていない山林を先祖代々相続しているが登記はそのまま」というケースも、例外ではありません。空き家となっている住宅はもちろん、その敷地の土地、そして森林や農地といった一見活用価値が低く放置されがちな不動産も漏れなく登記義務があります。
なお、未登記のまま相続されることが多い財産として山林や農地が挙げられますが、こうした不動産も今後は放置できなくなる点に注意が必要です。不動産登記法上で登記対象となる土地・建物であれば、全て相続登記義務化の範囲内と認識してください。
分筆や合筆前の土地、私道負担部分など、名義人として相続人が権利を承継する不動産はすべて漏れなく登記手続きを行うことになります。
法人・共有名義の扱いはどうなる?
相続登記義務化は基本的に個人の相続を念頭に置いた制度ですが、場合によっては法人や共有名義も関係します。
まず法人については、個人から法人への遺贈(例えば公益法人へ不動産を譲る旨の遺言)により法人が不動産を取得した場合、その法人が登記申請義務を負います。ただし法人相続は一般的ではないため、多くのケースでは問題にならないでしょう。
一方、共有名義で不動産を相続した場合(複数の相続人が法定相続分どおり共同で所有する状態)は、共有者全員に登記義務があります。実務的には、相続人の一人が代表して他の共有者の持分もまとめて登記申請するケースが多いですが、この場合でも他の共有相続人全員が義務を果たした扱いとなります。
逆に、誰も登記申請しなければ共有者全員が義務違反となり得ます。登記申請書には相続人全員の情報を記載しなければならないため、共有者の一人でも協力しないと申請が難航します。
したがって、共有状態で不動産を受け継いだ場合は相続人同士で連絡を取り合い、誰が申請手続きを進めるか決めて速やかに対応することが重要です。
義務化により相続登記をしないとどうなる?【罰則解説】
10万円以下の過料が科されるケース
| 項目 | 概要 |
|---|---|
| 過料の概要 | 相続登記の義務化により、正当な理由なく申請義務を履行しないと 10万円以下の過料が科される(行政上の秩序罰)。 |
| 申請期限 | 不動産を相続・遺贈で取得したと知った日から3年以内に申請しない場合、違反となる。 |
| 過料額 | 違反の程度に応じて決定。 最高額:10万円 |
| 適用判断の流れ | ① 義務違反を法務局(登記官)が確認 → ② 家庭裁判所へ通知 → ③ 裁判所の決定で過料が確定 |
| 救済措置 | 期限後でもまず法務局から催告が届く。 指定期限内に登記申請すれば過料は免れる可能性あり。 |
相続登記の義務化に伴い、新たに過料(科料)という行政上の罰則規定が設けられました。正当な理由がないのに相続登記の申請義務を履行しなかった場合、10万円以下の過料を科される可能性があります(*5)。
具体的には、不動産を相続または遺贈で取得したことを知った日から3年以内に登記申請をしないと違反となり、過料の対象となり得ます。過料額は違反の程度に応じて決定されますが、最高で10万円です。
これは刑事罰ではなく行政上の秩序罰という位置づけで、前科が付くものではありませんが、納付しなければならない点では実質的なペナルティとなります。
過料が科されるケースは、催告にも応じず正当な理由もなく放置を続けた悪質な場合だと考えられます。新制度では「3年以内」が一つのリミットであり、それを超えると催告→過料手続きへと進むリスクがあることを覚えておきましょう。
正当な理由(例:紛争中・登記不能)は免除対象
相続登記の義務違反について過料を科す場合でも、「正当な理由」がある場合には過料が免除(不適用)されます。
正当な理由とは、相続人の側で登記申請したくてもできない客観的事情があるケースを指します。例えば、相続人同士で遺産分割を巡る紛争が起きていて相続登記どころではない場合、あるいは必要書類がどうしても揃わず登記が現時点で不可能な場合などが該当します。
また、相続人の一人が重病で長期間入院しており手続きに参加できない、といった事情も正当な理由と考えられます。このような理由がある場合、法務局はすぐに過料手続きに移らず状況を考慮します。
実際、「正当な理由が認められた場合には過料の通知は行われない」という運用方針が示されており(*5)、やむを得ない事情がある相続人を救済する仕組みとなっています。
正当な理由の具体例としては前述の紛争中や登記不能のほか、「相続人の数が非常に多く戸籍収集や利害調整に時間がかかっている場合」や「相続財産を処分するかどうか検討中で手続きを留保している場合」なども考えられます。
また、経済的困窮で当面登記費用(登録免許税や司法書士報酬等)が捻出できないケースも考慮される余地があるでしょう。
もっとも、正当な理由があるかどうかの最終判断は法務局の裁量となります。主観的な事情ではなく、客観的に見て「それなら仕方ない」と認められる状況である必要があります。もし正当な理由がある場合には、法務局から催告が来た際にその理由を申し出て理解を得ることが重要です。
反対に「忙しかった」「面倒で放置していた」では理由になりません。いずれにせよ、正当な理由が無い限り期限内の申請が求められる点は変わりませんので注意してください。
罰則対象の判断基準と通知方法
過料の対象となるかどうかの判断基準は、「相続登記申請を期限内に行ったか否か」と「正当な理由の有無」です。法務局は登記が未了の相続について、まず相続人に対し期限を定めて申請するよう催告(書面での通知)します。
この催告は相続人の住所宛に郵送等で届けられ、○ヶ月以内など具体的な猶予期間が示されます。催告期間内に登記申請が行われれば、過料手続は停止されます(*5)。
一方、催告を無視するかたちで期間を過ぎても申請が無い場合、登記官はその事案を家庭裁判所に通知し、裁判所が過料を科すかどうかの審査・決定を行います。過料が科される場合は後日、裁判所から相続人に対して過料納付の通知書が送達される流れです。
過料の納付命令を受けた後に登記をしても、過料を支払った事実によって義務違反が帳消しになるわけではありません(*7)。そのため、過料を払えば登記しなくて良いというものではない点にも留意が必要です。
つまり、過料はあくまでペナルティであり、それとは別に最終的には相続登記を完了させなければなりません。
なお、共有相続の場合の過料通知の扱いについて補足します。遺産分割が未了で相続人全員が法定相続分どおり共有で権利を持っている状態では、基本的に相続人全員が登記義務者です。そのため、もし期限を過ぎた場合は相続人全員に対して催告が届く可能性があります。その後も誰も申請しなければ、全員が過料の対象となり得ます。
ただし遺産分割協議が成立して不動産取得者が決まっている場合は、本来その取得者が単独で義務者となるため、協議成立日から新たに3年以内に申請すべき立場です。
このように状況によって過料の通知対象者は異なります。いずれにせよ、通知が届く前に自主的に登記を済ませるのが最善であり、催告状が届いてしまった場合は猶予期間内に迅速に対処することが肝心です。
義務化はいつから適用?施行日と経過措置の考え方
施行日は2024年4月1日から
相続登記の申請義務化は、2024年(令和6年)4月1日から施行されています。したがって、この日以降に発生した相続(または遺贈)については、原則として相続人は取得を知った日から3年以内に登記を申請する法的義務を負うことになります。
例えば2024年5月1日に被相続人が亡くなった場合、相続人は2027年4月30日までに登記申請を完了させる必要があります。このように、新制度の適用開始日以降の相続については「3年以内」というカウントが個別にスタートします。
一方、施行日より前に相続が発生したケースについては次項の経過措置となりますが、まずは2024年4月以降の新しいルールが始まったことを押さえてください。
なお、相続登記義務化と同時に導入された「相続人申告登記」制度も同じ施行日(2024年4月1日)から利用可能となっています。この制度は、相続登記を簡易な方法で申請できる新手続きです。すでに義務化施行後、法務局では相続登記に関する相談窓口を拡充するなどの対応を行っています。
該当する相続人の方は、「まだ時間がある」と油断せず早めに情報収集と準備を始めましょう。
過去の未登記相続にも義務が遡及する
相続登記義務化は施行日前に発生した相続にも遡及適用されます。改正法の附則で経過措置が定められており、2024年4月1日より前に開始した相続で登記が未了のものも例外ではありません(*6)。
ただし、過去のケースについてはいきなり「過去○年以内に相続した人もすぐ申請を」と言われても対応が難しいため、猶予期間(経過期間)が設定されています。その期限が2027年(令和9年)3月31日です。
言い換えれば、施行日前に発生して放置されていた相続物件は、遅くとも2027年3月末までに登記を済ませれば義務違反とならないことになります。
例えば2010年に父親が亡くなって以来ずっと名義変更していなかった実家の土地建物がある場合、2027年3月31日までに相続登記を申請すれば過料は科されません。これは経過措置による特例であり、2024年4月1日時点で既に発生していた相続について一律3年間の猶予を与えた形です。
重要なのは、この経過期間を過ぎると過去の相続案件でも過料の対象になり得るという点です。先ほどの例で2027年4月以降も登記せず放置していれば、法務局から催告→過料といった手続きが行われる可能性があります。
したがって、過去に相続登記を怠ってきた不動産をお持ちの方は、この経過措置のうちに早めに手続きを完了させる必要があります。手続きに時間がかかりそうな場合は専門家(司法書士)に相談するなどして計画的に進めましょう。
登記期限のカウント方法と例
義務化における登記申請期限のカウント方法は、「相続による取得を知った日から3年以内」というルールに基づきます。
この「取得を知った日」とは一般的には被相続人が亡くなった日(または遺贈の場合は遺言の内容を知った日)を指すと解されています。多くの場合、近親者の死亡による相続ではその事実をすぐに知るため、死亡日から3年後の応当日が締切と考えて差し支えありません。
遺言による受遺者の場合は、遺言書が開封されて自分が不動産を取得することを認識した日から起算します。なお、相続人が相続の事実自体を長期間知らなかったような特殊なケースでは、その人が現実に相続開始を知った日が起点となります。
一方、遺産分割協議が成立した場合の期限にも注意が必要です。遺産分割によって特定の相続人がその不動産を取得することが決まった場合、その遺産分割成立日から3年以内に、その内容を反映した相続登記を申請しなければなりません 。
| 項目 | 登記申請期限のカウント方法 |
|---|---|
| 基本ルール | 「相続で取得したと知った日」から3年以内に相続登記を申請。 |
| 死亡による相続 | 一般的に被相続人死亡日を起算日とし、 3年後の応当日が締切。 |
| 遺贈(遺言) | 遺言内容を認識した日から3年以内に登記。 |
| 遺産分割成立 | 分割協議成立によって取得者が決定した成立日から3年以内。 (死亡から時間が経過していても、ここから新たにカウント) |
| 特殊ケース | 相続開始を知らなかった場合などは、 実際に相続を知った日が起算点に。 |
例えば死亡から5年後に遺産分割が整い不動産の取得者が決まった場合、その決まった日から新たに3年カウントされます。これは、遺産分割前の段階では相続人全員が法定相続分で共有する状態ですが、分割後は取得者が単独で義務を負うことになるためです。
したがって、死亡後しばらく遺産分割協議に時間を要したような場合でも、協議成立日から改めて期限管理をする必要があります。
登記期限の具体例を挙げます。例えば2024年5月20日に被相続人が死亡し、すぐ法定相続分で相続したケースでは、2027年5月19日までに登記申請が必要です。仮にその後2025年6月1日に遺産分割協議が成立して不動産の取得者が確定した場合、取得者は2028年5月31日までに改めて(分割内容に沿った)相続登記を申請する必要があります。
このように、相続開始と遺産分割成立の二つのタイミングから期限をカウントする仕組みとなっています。複雑に感じるかもしれませんが、「相続開始時点の3年」と「分割確定時点の3年」のいずれか早い方を目安に、とにかく期限を逃さないように対応することが重要です。
義務化で空き家所有者にどんな影響がある?

放置空き家の所有者特定が必須に
相続登記義務化により、空き家を相続したまま放置すると所有者が必ず特定される仕組みになります。
従来は、親から空き家を相続しても「利用予定がないから」と登記せず故人名義のまま放置するケースが珍しくありませんでした。しかし義務化後は、相続した空き家であっても登記をしなければならず、名実ともに所有者として責任を負う立場が明確化されます。
つまり、今後は空き家を所有している相続人が誰なのか登記簿上はっきりわかるようになります。行政側から見れば、倒壊の危険がある特定空家等に対して適切な措置を促す際に、登記情報から所有者を迅速に把握できるというメリットがあります。
裏を返せば、相続人にとっては「相続した以上、空き家を放置せず適切に管理・処分する責任」を問われやすくなるとも言えます。義務化によって名義人が現れることで、空き家の固定資産税の納付先や管理責任の所在がより明確になるでしょう。
今まで所有者不明だった空き家の中には、すでに相続人も高齢化して管理が困難なケースもあります。しかし今後は「知らないうちに自分が所有者になっていた」と済ませることはできず、登記を通じて所有者として公に示されることになります。
空き家問題の対策強化として、行政代執行や固定資産税の優遇除外といった措置も取られていますが、相続登記義務化はより根本的に所有者を明らかにさせる点で大きな影響を及ぼします。
補助金や解体にも「登記済み」が条件となる場合
相続登記を済ませて正式に所有者となっていないと、各種の公的支援制度を利用できない場合があります。
例えば、老朽空き家の解体費用に対する自治体の補助金や、空き家のリフォーム補助金などを受けようとする場合、申請者は原則その空き家の「登記上の所有者」である必要があります(*7)。
未登記のままでは、たとえ実質的に相続して管理している空き家であっても、公的には所有者と認められないため支援の対象外となり得ます。実際、多くの自治体で空き家の除却(解体)補助金の申請条件に「登記簿上の所有者またはその相続人であること」と明記されています。
相続登記を完了していないと、名義が故人のままでは第三者に権利がある可能性も排除できず、行政として補助を出せないからです。
また、「空き家バンク」に登録して利活用を図る場合も、登記上の所有者である相続人が手続きを行うのが前提です。相続登記を怠ったままでは、空き家の売却や賃貸活用をスムーズに進めることも難しくなります。
このように、「登記済み」であることが空き家に関する各種手続きの前提条件となるケースが増えると考えられます。国も空き家対策として相続登記を促進する補助制度を設け始めており、自治体によっては相続登記の費用を一部助成する動きも出ています。
相続した空き家を有効活用したり公的支援を受けたりするためにも、まずは登記を済ませ名義を自分に変えておくことが肝心です。
相続放棄や共有者との調整が困難になる前に対策を
相続登記の義務化は、空き家をめぐる相続人の判断や調整にも影響を及ぼします。例えば、「価値が低く管理負担だけ大きい空き家なので相続したくない」という場合、法律上は相続放棄という手段があります。
しかし、相続放棄ができるのは原則として相続開始を知ってから3ヶ月以内であり、タイミングを逃すと放棄は認められません。義務化によって登記しなければ過料リスクが生じる以上、空き家を引き継ぎたくない場合は早めに相続放棄の手続きを検討する必要があります。
相続放棄すればその人は初めから相続人でなかったことになるため、当然その空き家について登記義務は免れます。ただし他の相続人が全員放棄すると、最終的にその不動産は国庫に帰属しますが、そこに至るまで家庭裁判所で相続財産管理人の選任等の手続きを経ることになります。
いずれにせよ、「空き家を放置したまま誰も相続登記せず先送り」という選択肢は事実上なくなるため、自分が相続人となった空き家をどうするか早期に方針を決めることが大切です。
また、空き家を兄弟姉妹などで共有している場合、将来的に処分するにしても全員の同意が必要になるなど、意思統一が難しくなりがちです。義務化によってとりあえず相続登記を済ませても、その後の管理費負担や処分方針で揉めるケースも考えられます。こうした事態を避けるには、相続の段階でできるだけ早く共有解消や役割分担を話し合っておくことが有効です。
義務化を機に、空き家を含む不動産の相続について親族間で早めに話し合い、放棄や売却も視野に入れて合意形成を図ることが望まれます。
相続登記の基本的な流れと必要書類
戸籍収集から遺産分割協議書の準備
相続登記の手続きは、大まかに次のような流れと書類準備になります。
| 準備項目 | 内容・ポイント |
|---|---|
| 戸籍関係書類 | 被相続人の出生~死亡までの戸籍・除籍・改製原戸籍+相続人全員の現在戸籍・住民票、住民票除票を取得。 |
| 相続関係説明図 | 戸籍を基に家系図を作成し、登記申請書に添付。 |
| 遺産分割協議書 | 不動産の所在・地番・家屋番号を記載。 相続人全員が実印押印し印鑑証明書を添付。 |
| 固定資産評価証明書 | 市町村で取得。 登記の登録免許税算出や相続税評価の参考に。 |
| 登記識別情報(権利証) | 被相続人名義の不動産の場合は可能な限り用意しておくと手続きがスムーズ。 |
なお、遺言書があって不動産の帰属が指定されている場合は、基本的に遺産分割協議は不要です(遺言書の内容に従って相続登記します)。また、法定相続分どおりに登記するだけで良い場合も協議書は不要ですが、後々のために相続人間で合意が取れているなら協議書を作成しておくと安心です。
以上の戸籍収集と協議書作成が相続登記の事前準備の核となります。他にも、不動産の固定資産評価証明書(評価額を知るため、市町村で取得)や登記識別情報(被相続人が所有していた物件の権利証)なども調達できれば用意します。
段取りとしては「戸籍集め → 相続関係図作成 → 遺産分割協議書作成」という順序で進めるとスムーズでしょう。
登記申請書の作成と提出方法(法務局 or オンライン)
必要書類が揃ったら、いよいよ登記申請書を作成します。登記申請書は不動産ごとに所有権移転の申請内容を記載する書面で、法務局のウェブサイト等で書式例が公開されています。
相続登記の場合、申請人(相続人)や被相続人の氏名住所、相続原因などを記入し、添付書類として収集した戸籍類や遺産分割協議書、評価証明書などを一覧にします。申請人自身で作成することも可能ですが、不備があると受理されないため、心配な場合は司法書士に依頼することも検討しましょう。
登記申請の提出方法は主に2通りあります。
| 申請方法 | 概要・ポイント |
|---|---|
| 法務局窓口提出・郵送 | 不動産所在地を管轄する法務局へ申請書+添付書類を提出。 窓口ならその場で形式チェックを受け、補正指摘を即対応可。 郵送の場合は受領後に補正連絡が来る点に注意。 |
| オンライン申請 (登記・供託オンライン申請システム) |
24時間いつでも申請可能。 事前に電子証明書取得、添付書類のPDF化が必要。 窓口混雑緩和のため法務局もオンライン活用を推奨。 |
初めて相続登記を行う方にとってはハードルが高く感じられるかもしれませんが、法務局では手続き案内サービスも行っています。予約をすれば書類の書き方など相談に乗ってもらえるので、積極的に活用すると良いでしょう。
提出後、問題なく受理されれば1〜2週間程度で登記が完了し、登記識別情報(いわゆる新しい権利証)が発行されます。以上が相続登記の申請から完了までの流れです。
登録免許税と必要費用の目安
相続登記を行う際には、登録免許税(登記税)という国に納める税金がかかります。これは登記の際に課される税金で、不動産の価額(評価額)に一定税率を掛けて算出します。
相続による所有権移転登記の税率は原則0.4%(評価額の千分の4)です。ただし、2024年現在は相続登記の促進策として特例措置が設けられており、個人が相続(遺贈を含む)で取得した土地に関する所有権移転登記については登録免許税が非課税(免税)となっています(*9)。
この免税措置は令和9年(2027年)3月31日までの期間限定で、土地が対象です。建物については免税の対象外であるため、評価額に0.4%の税金がかかります。
登録免許税以外にかかる費用としては、必要書類の取得費用(戸籍謄本や住民票、印鑑証明書、固定資産評価証明書などの発行手数料)があります。戸籍類は1通数百円程度ですので、複数集めても数千円〜1万円以内でしょう。
また、司法書士に依頼する場合は報酬費用が発生します。司法書士報酬はケースバイケースですが、不動産1件あたり数万円〜10万円程度が目安です。たとえば土地・建物一式の相続登記を依頼すると、登録免許税等の実費を除いて報酬約5〜10万円前後となることが多いです。
自分で行えば報酬は不要ですが、書類不備で何度も差し戻しになるリスクもあります。時間と労力を考慮して、必要に応じ専門家のサポートを検討してください。
以上をまとめると、相続登記に必要な費用の内訳は「登録免許税+各種証明書発行手数料+(司法書士等への依頼費用)」となります。免税措置のある今のうちに土地の相続登記を済ませれば税金負担を減らせますので、この機会を逃さず手続きを進めることをおすすめします。
よくあるケース別・対応方針まとめ

登記名義人が亡くなって20年以上放置している場合
相続登記が長年放置されているケースでは、まず現状を正確に把握することが重要です。
例えば、祖父名義のまま誰も登記を継いでいない土地が20年以上放置されているような場合、既に祖父の相続人である親世代も亡くなっている可能性があります。この場合、「祖父→親→自分」という数次相続が発生しているため、一度に複数世代分の相続登記を行わねばなりません。
手順としては、まず祖父から親への相続、その次に親から自分への相続という具合に、順を追って登記を移転していきます。ただし実務上は、祖父の相続と親の相続を同時に申請して直接孫(自分)名義に登記することも可能です。
いずれにせよ、必要な戸籍や相続人の範囲が通常より複雑になるため、専門家の助言を仰ぎながら進めるのが得策です。
また、20年も放置されていると相続人の中には行方不明者や音信不通の親族がいるかもしれません。その場合でも義務化により猶予期限(過去の相続は2027年3月末まで)があるため、まず連絡の取れる相続人で協力し、登記を進める準備をしましょう。行方不明者がいる場合は、家庭裁判所に不在者財産管理人を選任してもらうなど法的措置が必要になることもあります。
大変に思えるかもしれませんが、長年放置した相続物件こそ早急に手を打つ必要があります。義務化の施行で状況は待ったなしですから、戸籍の収集や相続関係者の洗い出しを急ぎ、必要であれば司法書士や弁護士にサポートを依頼しましょう。
相続人が多数いて連絡が取れない場合
相続人の数が非常に多い大家族や、遠縁の親族まで相続人になるケースでは、全員の意思を揃えて共同で登記申請するのが困難なことがあります。
このようなケースでは、義務化で過料のリスクがあるとはいえ、すぐに全員から実印をもらって協議書をまとめるのは現実的に厳しいでしょう。その際に活用できるのが「相続人申告登記」(相続人による所有権移転等の申出)という新制度です。
相続人申告登記であれば、相続人のうち一人からの申出でも手続き可能であり(*8)、必要書類も申出人本人の戸籍や被相続人の死亡の事実が分かる書類程度で済みます(遺産分割協議書は不要)。
この方法なら連絡の取れない相続人全員の参加を待たずに済むため、過料リスクの回避策として有効です。ただし相続人申告登記はあくまで暫定的な措置であり、実際の名義はまだ故人のまま(付記が付くだけ)です。その後、相続人間で協議が整った段階で正式に相続登記(所有権の移転登記)を行う必要があります。
したがって、相続人申告登記を終えた後も引き続き連絡が取れない相続人への対応策は考えなければなりません。義務化によってとにかく「期限内に何らかの登記をする」ことが優先されますので、まずは代表者が申告登記で時間を稼ぎ、その間に全員の合意形成や行方不明者対策を進めると良いでしょう。
相続人が多数の場合は、専門家チームに依頼して戸籍や相続人調査を一括して任せる方法もあります。
相続放棄したい場合の手続きと注意点
相続したくない不動産がある場合、家庭裁判所に相続放棄の申述を行うことで初めから相続人でなかったことにすることができます。ただし相続放棄にはいくつか注意点があります。
| 項目 | 概要・ポイント |
|---|---|
| 相続放棄の申述期限 | 相続開始を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所へ申述。 相続登記義務(3年)よりはるかに短いので要注意。 |
| 期限経過後の例外 | 「相続財産の存在を知らなかった」等、正当な理由があれば期限伸長が認められる場合も。 ただし空き家は存在を把握しているケースが多く、適用は困難。 |
| 放棄の効果 | 放棄者は初めから相続人でなかった扱いとなり、相続登記義務の対象外となる。 |
| 注意点 | 放棄しても他の相続人が権利義務を承継するだけで、空き家の帰属問題が即時解決するわけではない。 |
相続人全員(推定相続人全員)が放棄した場合には、家庭裁判所で相続財産管理人が選任され、最終的に不動産は国庫に帰属する可能性があります。これは昨今創設された「相続土地国庫帰属制度」とは別に、従来からある仕組みです。
「相続土地国庫帰属制度」は、相続人が一旦相続登記した上で不要な土地を国に引き取ってもらう制度ですが、一定の要件(建物が無い、担保が無いなど)を満たす必要があり、引き取りが却下されるケースもあります。これに対し相続放棄で相続人不在となった場合は、最終的には原則国庫帰属となりますが、管理人選任や債権者への清算手続きなど時間と費用がかかります。
以上を踏まえ、空き家を含む不動産をどうしても引き継ぎたくない場合は、迅速に相続放棄の是非を判断することが肝心です。放棄するなら期限内に忘れず手続きを行いましょう。放棄が認められれば登記義務も負いませんが、その分相続財産から得られる利益も放棄することになります。
なお、相続放棄せずに一旦相続した上で、相続土地国庫帰属制度を利用する手もあります。この制度では管理料(10年分相当の土地管理費)を納付すれば不要な土地を手放せますので、条件に合うなら検討しても良いでしょう。
よくある質問(FAQ)

Q1 相続登記をしていないと売却できない?
はい、基本的には相続登記を完了しないと不動産の売却はできません。 不動産を売却する際には、売主が登記簿上の所有者であることが大前提だからです。
相続登記をしないままでは、名義が故人のままですので相続人は正式な権利者として扱われず、買主に所有権移転登記を渡すことができません。したがって、相続した不動産を第三者に売却したい場合、売買契約を結ぶ前提として相続登記を済ませておく必要があります。
もし時間がない場合でも、買主への所有権移転登記と同時に相続登記を申請する「二段階登記」手続きをとることになりますが、いずれにしても相続人名義への変更は避けられません。
過去には、相続登記をしないまま「権利証(実印証明付き)」だけを渡して済ませるような慣習も一部にありましたが、現行制度では適切ではありません。買主側も金融機関も登記による権利移転を重視します。
したがって、売却を検討している相続不動産は早めに登記を自分名義に変えておくのが賢明です。義務化によって相続登記がより厳格に求められる今、なおさら売却時の未登記は許容されないでしょう。
Q2 義務化前に登記した場合も罰則の対象になる?
いいえ、義務化施行前に既に相続登記を完了している場合は、罰則の対象にはなりません。
過料の規定は2024年4月1日以降の義務違反に対して適用されるものです。したがって、例えば2020年に相続が発生し同年中に相続登記を済ませていたような場合、義務化以前に自主的に履行していたわけですから何の問題もありません。過料の心配は不要です。むしろ先んじて登記していたことにより、経過措置期間内に対応する手間も省けています。
一方、義務化前に相続が発生して未登記のままだった場合は注意が必要です。この場合は前述のとおり2027年3月末までに登記をしないと過料リスクが生じます。義務化前か後かより、「登記を済ませているかどうか」で扱いが異なる点に留意しましょう。
つまり、義務化より前に相続登記を完了していれば何も問題はないが、完了していなければ義務化後は猶予期間内に対応を迫られる、ということです。
また「義務化前に3年以上放置していたから罰せられるのでは?」と不安になる方もいるかもしれませんが、その点も心配いりません。あくまで法律施行後の期間カウントですので、施行前の経過期間について遡って罰則を科すようなことはありません(不遡及の原則)。
ただし、住所変更や再相続の発生など、新たな義務事項が生じた場合は別途対応が必要になります。
Q3 相続人申告登記との違いは?
相続人申告登記とは、「名義を変えずに相続の事実だけを法務局に届け出る手続き」です。通常の相続登記と違い、不動産の所有者名義はそのまま被相続人のまま残ります。
この制度は、2024年の法改正で新たに導入されたもので、相続登記の義務化に対応しやすくするために設けられました。相続人が法務局に対して「相続が発生した」ことを申告すると、登記簿上にその旨が記録されます。たとえば「令和○年○月○日相続、相続人〇〇から申出」といった内容が付記されますが、名義自体は変更されません。
一方、通常の相続登記では、相続人が正式な所有者として登記簿に記載されます。つまり、名義が被相続人から相続人に書き換わるため、その不動産を売却したり担保にしたりすることが可能になります。
相続人申告登記の利点は、手続きが簡単であることです。相続人全員の合意や遺産分割協議書が不要で、相続人のうち1人が最低限の戸籍書類などを提出すれば完了します。しかも、所有権の移転がないため登録免許税も不要です。このため、相続人が多かったり、分割協議がまとまっていない場合でも、まずこの制度を利用すれば登記義務を果たすことができます。
ただし、名義は依然として被相続人のままなので、その不動産を実際に処分したり利用したりするには、改めて通常の相続登記を行う必要があります。相続人申告登記はあくまで「中間的な届出」であり、最終的には正式な登記で所有権を確定させる前提の制度です。
なお、申告登記を行った後に本登記をする場合でも、2027年3月末までは土地の登録免許税が免除される措置が適用されます。あまり知られていない制度ではありますが、うまく活用することで、相続登記義務化の負担を大きく減らすことができます。
まとめ|相続登記の義務化は「早めの対応」が最大の対策
2024年施行の相続登記義務化により、不動産の相続手続きをこれまで以上に放置できない時代となりました。
最大3年という期限と過料のペナルティが定められたことで、相続発生後は速やかに登記に着手する必要があります。空き家問題や所有者不明土地の解消という社会的目的もありますが、個々の相続人にとっては自らの財産と責任を明確にする機会とも言えます。義務を守ることは、ひいては不動産の利活用や円滑な資産承継にもつながります。
最大の対策は何より「早めの対応」です。相続が発生したら戸籍収集や遺産分割の協議を先延ばしにせず開始しましょう。登記義務の履行はもちろん大事ですが、登記を済ませておけば売却や活用も自由に検討できますし、余計な過料リスクにも悩まされずに済みます。
もし事情があって期限内に難しい場合も、相続人申告登記など柔軟な制度がありますので諦めずに対応策を講じてください。
相続登記の義務化は不安もあるかもしれませんが、裏を返せば適切に対処すれば怖がる必要はない制度です。早め早めの行動で、空き家や相続不動産を健全に次世代へ引き継いでいきましょう。
義務化時代の新常識として、「相続があったらまず登記」を心に留めておいてください。
出典元
*1 国土交通省:「空き家等対策の推進に関する特別措置法関連情報」
*2 所有者不明土地問題研究会:「所有者不明土地問題研究会 最終報告概要」
*3 総務省統計局:「令和5年住宅・土地統計調査」
*5 法務省:「相続登記の申請義務化に関するQ&A」
*6 法務省:「相続登記の申請義務化について」
*7 香川県土庄町:「空き家相続登記支援補助金」
*8 法務省:「令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント」
*9 前橋地方法務局:「相続登記の登録免許税の免税措置について」